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地方創生イベントレポート「第3回 DNP地方創生セミナー〜インバウンドは量から質へ〜」

2017/03/23

大日本印刷(DNP)が、地方創生戦略における地域の抱える課題や、その解決に向けた最新事例の紹介などを行う「DNP地方創生セミナー」。第1弾は「DMO(Destination Management Organization ※1)の推進」、第2弾は「地域商社(※2)の取り組み」をテーマに開催され、DMOや観光に携わる自治体、観光協会、団体、企業などから多くの参加者を集めました。

そんな地方創生の「最新事情・最新事例」を知ることができる同セミナーの第3回目が、去る3月3日に東京・市ヶ谷のDNPプラザで開催。その熱を体感すべくセミナーに参加してきました。

※1 地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人(観光庁HPから引用)

※2 農産物などの地域の資源をブランド化し、生産・加工から販売まで一貫してプロデュースして地域内外に販売する組織のこと

【セミナーの登壇者(※敬称略)】
枌大輔(株式会社くまもとDMC 福岡オフィス代表/株式会社コレゾ 代表取締役/Kyushuro Co., Ltd. 日本支社長)
渡辺幸三(福山市ふるさと資源活用推進員)
宮澤淳(佐井村役場 総合戦略課)

スペシャリストと自治体代表者がインバウンド事例を報告

今回のテーマは「インバウンド観光客の地域消費アップ」。韓国個人客向けサービスに精通している枌(へぎ)大輔さんによるインバウンド個人顧客戦略のレクチャーに始まり、DNP旅の“よりみち”アプリ「YORIP(ヨリップ)」を活用してインバウンド誘致を実践した「青森県下北郡佐井村」と「広島県福山市」の成果報告が行われました。

最初に登壇したのは、韓国の個人客向け旅館予約ポータルサイト「KYUSHU-RO(九州路)」の立ち上げに関わり、現在も様々なプロジェクトを展開する「インバウンド誘致のスペシャリスト」枌大輔さん。自身の経験から「高額消費観光客」をターゲットにした誘致戦略のポイントをレクチャーしてくれました。

枌さんによると、地域への入客は有限であるため、それを確保するためには、やはり「仕掛け」が必要。そこで重要になってくるのは、明確なコンセプトを打ち立てた上で、

  • 看板商品(和の情緒を感じられるものだと尚よし)
  • 観光のゴールデンルート

を確立して「魅力の理由」と共にユーザーへアピール・発信することなのだそう。また、ゴールデンルートをつなげるためには、二次交通(移動手段)を確保することも大切と枌さんは語ります。

つまり、看板商品やゴールデンルートで来訪の動機付けができても、そこへ行くための「足」が整備されていなければ、観光客は現地に向かうのを止めてしまうということ。二次交通の確保は、簡単なことではありませんが、ゴールデンルートを回る交通手段がないのであれば、自治体や関連企業と連動して、連絡バスやレンタカーサービスなどを導入できるようにするのがよいかもしれませんね。

続いての登壇は、広島県福山市から「福山市ふるさと資源活用推進員」の渡部幸三さん。インバウンド戦略を念頭に置いた「瀬戸内の中央に位置する人口約47万人の地方都市の特徴や強み、目指すべきところ」についてお話をしてくれました。

「福山市が軸を置いている観光資源は、『バラ、鞆の浦(※3)、福山城』の3つ。これらをどう繋げていくかが、インバウンド戦略のカギを握る」と渡部さん。鞆の浦と福山城は歴史的価値を有するもの、市内に100万本が咲き誇るバラは市のシンボルとも言える存在で、福山市にとっては欠かせない観光資源です。実際に外国人の反応もよく、映画の撮影で鞆の浦に滞在したヒュー・ジャックマンが、同地の魅力をメディアで語ったところ、問い合わせが殺到したのだそう。

バラ、鞆の浦、福山城の3つは、単独で「看板商品」となり得るものです。しかし、インバウンド観光客の地域消費アップのためは、さらに市内を周遊できるような目玉商品が、もういくつか欲しいところ。
そこで候補に浮かび上がってくるのは何か? それは、「福山琴、備後畳表、松永下駄、備後絣(びんごかすり)、鞆保命酒(さやほうめいしゅ)」という5つの福山市の「伝統産業」のような気がします。

この5つの伝統産業は、すべて100年以上の歴史を持ち、福山市ならではの“色”を持ったもの。先に枌さんが述べた、「和の情緒を感じられるもの」でもあるため、これらを展覧や体験といった形で、看板商品(バラ、鞆の浦、福山城)観光と組み合わせれば、外国人旅行客が興味を抱くゴールデンルートが確立できるはずです。

また、福山市には約1200人の留学生がいるそうなので、彼らの力を借りてマーケティングを行えば、さらに魅力的な「新しい」看板商品ができるような気も。今後福山市がどのようなインバウンド戦略を打ち出していくのか、期待して待ちたいところですね。

※3 坂本龍馬が所属した海援隊の藩船・いろは丸が、紀州藩船と衝突・沈没した「いろは丸事件」や、ジブリ作品「崖の上のポニョ」の舞台としても知られる港町。「潮待ちの港」として栄えた江戸時代の街並みが現在も保存されていることや、仙酔島(無人島)が目と鼻の先に見える豊かな自然環境に恵まれていることで、観光地としても高い人気を誇っている。

最後は、青森県下北郡佐井村・佐井村役場 総合戦略課の宮沢淳さん。「アクセスが悪く、とにかく遠い」(宮沢さん)という佐井村が、「いかにしてインバウンド事業を展開していくべきなのか」というテーマを、DNPと共に行った実証実験の成果を交えながら解説します。

「アクセスが悪く、とにかく遠い」というデメリットを抱える佐井村が、インバウンド誘致の足がかりとして行ったのが、「日本文化に興味がある留学生10名を3泊4日で滞在させ、国指定天然記念物である仏ヶ浦などの自然巡りや、べこもち作りなどの文化体験をしてもらい、留学生たちから滞在中のレポートを上げてもらう」という実証実験です。

この方法によって、地元の人には気づきにくい“外国人視点”での新たな観光資源の発掘や、現状の課題・改善点が浮き彫りになったそう。ちなみに留学生たちから上がって来た声には、

  • 「本州ルートより函館経由で来村できるほうが便利だし、魅力的」
  • 「民宿では、地元の人たちと触れ合う機会があると嬉しい」
  • 「ベジタリアンやハラ-ルに考慮した料理があるとよいはず」

といった目から鱗な意見があり、「今後のサービス改善に繋がるヒントがたくさんあった」と言います。地域創生というと、どうしても地元に関する知識や思入れが強い「中の人」たちの力だけで「なんとかしよう」としがちですが、インバウンドサービスにおいては、「観光客(第三者)視点」を取り入れることがヒントにもチャンスにもなる。そんな宮沢さんの経験談は、説得力に長け、来場者たちの心を大きく打っていました。

また、イベントは二部制で、第二部では、福山市・渡部さんと佐井村・宮沢さんが、自身の自治体における「アジアの個人旅行者向け戦略の提案」を行い、「個人観光客=高額消費観光客」の目線で枌さんに評価してもらうというプレゼン形式のトークセッションが展開されました。インバウンド誘致のプロフェッショナルである枌さんの意見へ、真摯な眼差しを向けるお二人の姿に、両自治体のさらなる飛躍が見えた気がしました。

Locomedian View

建造物、公共施設、レジャースポット、自然etc.。どこの土地にも、一つくらいは海外や国内の他地域に誇れる、看板となる観光資源はあると思います。しかし、それらは観光ガイドや自治体のPR媒体に掲載されているような、言わば「すでに完成形になっている観光資源」であることも忘れてはなりません。
もちろんその様に魅了される人たちも少なく、安定的な消費が望めることも事実ですが、インバウンド観光客のニーズは、日本人観光客のニーズとは異なるはず。インバウンド観光客の地域消費アップを望むのであれば、新たな観光資源の発掘は必要不可欠と言えそうです。

どこの土地にも、一つくらいは海外や国内の他地域に誇れる、看板となる観光資源があるのと同じように、どこの地域にも「本当は魅力的なのに、その魅力がきちんと発信されていない(気づかれていない)観光資源」が、眠っているはず。その新たな観光資源をどのように見つけ出すのか、そしてどのように来訪者仕様に整備していくのかが、過熱化するインバウンド戦線を勝ち抜くための重要なポイントになるのかもしれません。

この記事の著者

竹沢 大樹(たけざわ だいき)

Locomedian 広報担当/株式会社shiftkey プランナー兼マネージャー

北海道石狩市出身。札幌でフラフラした後に、東京競馬場に通うため上京。濃い顔のせいで南国出身と思われることが多いが、純血の北海道人(北海道には想像以上に濃い顔の人が多い)。好きなものは、美女と競馬と夜のネオン。


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