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移住しやすい環境をつくって札幌に人を呼び戻す「札幌移住計画」の取り組み

2017/05/10

移住促進活動は、公民両方で盛んに行われています。たとえば公では、レポート記事にもした一般社団法人 移住・交流推進機構が総務省とともに主催した「JOIN 移住・交流&地域おこしフェア」があります。

今回は民にあたる移住プロジェクトをご紹介。その名も「札幌移住計画」で、その名の通り札幌への移住を促進している民間プロジェクトです。どんな人たちが、どんな方法で、どんな成果を挙げているのか? プロジェクトメンバーお二人にインタビューしました。

札幌内外の有志メンバーで進める移住推進プロジェクト


札幌移住計画で代表をつとめるのが、株式会社インフィニットループの松井さん。松井さんが札幌移住計画を立ち上げたのは、同じ活動がすでに福岡で行われていることを知ったのがきっかけだとか。

松井さん「福岡移住計画のサイトを見つけたとき、これはいい取り組みだと衝撃を受けて、すぐに福岡移住計画代表の方に連絡を取りました。『札幌でも同じプロジェクトを作っていいですか?』と問い合わせたところ、快くOKをもらえました。そして、『札幌移住計画』をスタートさせたんです。2015年3月ごろのことですね」

札幌移住計画のメンバーは、札幌市や札幌にゆかりのある道外の有志で構成されているそう。所属も立場も違うメンバーを、どうまとめているのでしょうか?

松井さん「コアメンバーは10人くらい。皆さん仕事や働いている企業もバラバラですが、“札幌のためなら”と、とても協力的です。最近では、札幌市や北海道の職員の方も手伝ってくれています」

札幌移住計画のメンバーは民間企業で働く人が主体のため、「札幌にある企業の合同説明会」といった側面もあります。

松井さん「主な活動内容は、札幌が勤務地になるIT技術職の募集ですね。道外で働いている札幌・北海道出身者が戻ってくるUターンがいちばん多いですが、JターンやIターンの方も対象です」

その中でも大規模なものが、東京で開催したイベント「みんなの札幌移住計画」でした。

札幌市と協力して「みんなの札幌移住計画」を東京で開催


「#みんなの札幌移住計画 2017」のメインビジュアル

松井さん「2016年1月に『東京のど真ん中に1日限りの札幌が出現』というコンセプトのもと、札幌移住促進イベント「#みんなの札幌移住計画」を東京で開催しました。参加者は100名を超え、会場に札幌愛があふれて大盛り上がりでしたね」

さらに2017年1月には、札幌市の協力も得て、「#みんなの札幌移住計画 2017 – 札幌市ITエンジニア、クリエイター・UIJターン合同フェア」を再び東京で開催しました。

松井さん「私自身、IT企業の人間なので、まずは今のところIT業種の募集に絞っています。というのも、移住してきた先がブラック企業だったというのは絶対に避けたいから。自分でコントロールできる範囲で着実に取り組みながら、今後は異業種の企業さんにも広げていきたいですね」

一方で、移住には住まいが不可欠。そこで、北海道内に展開する不動産会社・株式会社ビッグも札幌移住計画に参加しているほか、行政の協力も得ています。

松井さん「札幌市さんには以前から後援でご協力いただいていました。今年の1月のイベントは札幌移住計画と一緒に主催を務めていただき、より深く連携しています。今では市の職員の方に定例会に出席していただくなど、二人三脚で活動を進めています。計画の発足当初は、こういうプロジェクトに参加するにあたって適切な部署がなかったようで、企業促進課の方が動いてくれていました。IT職種の求人をメインに活動している今では、IT・クリエイティブ産業担当課の方がお手伝いしてくれています」

ここで気になるのが、札幌発のイベントを東京で行うことについてのハードル。それを解消するのが、東京を拠点に動くメンバーの存在です。東京で札幌移住計画の活動を行う五十嵐さんに、ご自身の役割を語っていただきました。

誰もが持つ「いずれは地元に」のハードルを下げる環境を作りたい

株式会社大人の代表であり、札幌移住計画のメンバーの1人・五十嵐慎一郎さん。五十嵐さんが前職で開設したという銀座のコワーキングスペース「the SNACK」でインタビュー

五十嵐さん「自分はもともと小樽出身で、高校まで北海道に在住でした。大学進学を機に上京し、そのまま東京で就職。今は独立開業し、『株式会社大人』という会社を札幌で作りました。実は住民票も札幌です。今は札幌と東京、さらに今手がけているビジネスの関係で栃木の那須、その3カ所を行ったり来たりという生活ですね」

そんな五十嵐さんが、札幌移住計画に参画した理由とは何なのでしょうか。

五十嵐さん「『いずれは地元に戻りたい』という感覚は、誰もが持つ自然なものだと思うんですよ。でも、戻りたいけどなかなか戻れない状況に置かれている、行動に踏み切れないという人は多いんです。それって、おそらく仕事の忙しさや、情報の少なさといった外部環境によるものが大きいんじゃないかな。それなら、実際に移住した人を見聞きできたり、札幌の賃金や家賃相場、物価や仕事の内容など細かい情報が具体的にわかったりする環境があれば、移住できるかできないか、するならどうしたらいいかといった判断ができて、実行に移しやすくなるのでは。そう思ったんです」

札幌移住計画には「札幌の街を盛り上げたい」というビジョンの他に、「札幌へ人材を呼び戻す」という狙いもあると、五十嵐さんは言います。

五十嵐さん「札幌から優秀な人材が流出していくことを解決したいと思っていたんですね。そんなときに福岡移住計画のことを見つけて、北海道でも同じ事ができないかと思い、福岡移住計画に確認を取ったら『ちょうど同じこと考えてる人がいる』と、松井さんを紹介してもらいました。それで、一緒にやろうと」

札幌のプロジェクトに東京という離れた地域から、五十嵐さんはどう参加しているのでしょうか。

五十嵐さん「そもそも札幌移住計画は有志のボランティア活動なので、みんな普段は自分の仕事をしています。それは自分も同じで、イベントの予定が立ったりしたら、準備に動くなどフレキシブルに活動しています。ただ、東京にいる北海道出身者については常にアンテナを張ってますね。そういう人とのつながりはどんどん作っていきたいので、主な活動内容は“人脈作り”でしょうか」

道産子に刺さる仕掛けで動員を増やし、SNSのリアクションでKPIを測定


松井さん「札幌移住計画では、

  • 実際の移住者を増やす
  • 北海道出身者に、札幌に戻るという選択もあるんだという気づきを与える
  • 札幌在住者に職を紹介し、市内に留める
という点を重視して活動しています。KPIとして見ているのは、イベントの参加者数、企業の応募数、実際の移住者数などですね。そして、イベントで記入してもらうアンケートや、SNSのリアクションを参考にPDCAを回しています」

五十嵐さん「札幌移住計画のイベントは単なる会社説明会にならないよう、『面白く・カッコよく』あることを強く意識しています。他のプロジェクトとの差別化を図りながら、札幌で生きていくということをプッシュしたいですね」

「面白く・カッコよく」とは具体的にはどういうことでしょうか? 例えば2017年1月のイベント「みんなの札幌移住計画2017」では、こんな仕掛けをしたそう。

五十嵐さん「イベントの事前申込の数があまり芳しくなく、何か集客の仕掛けが必要だったんです。そこで、先着100名に『ソフトカツゲン』をプレゼントすることにしました。これが結構好評で。来場者の多くが道内出身のUターン希望なので、地元ネタはやっぱり道産子に刺さりますね。ほかにも『東京脱出計画〜目指せ!北海道クイズ王〜』という企画で、協賛のAIR DOさんから航空券を提供してもらったり」

「ソフトカツゲン」とは、雪印メグミルクが北海道限定で発売している乳酸菌飲料。2016年に発売開始60周年を迎えた、道民なら一度は飲んだことがあるソウルドリンク

松井さん「札幌移住計画は少ない予算の中でやっているので、費用対効果が最も高い東京をメインの活動の場として、TwitterやFacebookなどのSNSを主に活用しています」

五十嵐さん「移住はインスタントにはできない、数年単位の時間が必要な行為ですから、希望者同士の情報交換や交流が非常に大切なんです。なので、イベントの後に懇親会を開いてコミュニティを作り、移住計画の流れが大きくなるようにしています」

Locomedian View

札幌といえば冬の寒さは厳しいけれど、食べ物の美味さは折り紙付き。自然も豊かなことから人気の観光地のひとつです。移住先としても住みやすい土地だと、松井さんも五十嵐さんも同じように語ってくれました。

私(島田)も学生時代に札幌で過ごした時期があるだけに、「札幌に移住すること」の魅力は具体的に想像できます。しかし、何かと便利で仕事も多い東京の生活からシフトするのは、背中を押してくれる何かが必要だということもよくわかります。

その点において、五十嵐さんの言っていた「実際に移住した人を見聞きできたり、札幌の賃金や家賃相場、物価や仕事の内容など細かい情報が具体的にわかったりする環境があれば、移住できるかできないか、するならどうしたらいいかといった判断ができて、実行に移しやすくなるのでは」という思いには深く共感できました。

また、場所を問わずに仕事ができるIT職種に絞った移住計画ということで、自分たちでコントロールできる範囲でのバランスのとれた活動であることも印象的です。それが、札幌市との連携を実現し、2度にわたる東京でのイベント開催と、安定した活動に結びついているのだと思いました。

この記事の著者

島田 喜樹(しまだ よしき)

Locomedian 編集・ライター/株式会社shiftkey プランナー・ディレクター/DJIスペシャリスト

埼玉県富士見市出身。高校まで地元だったけど勢いで札幌の大学に進学し、卒業後は埼玉にUターン。そのせいか会社の人からは盆や正月のたびに「札幌に帰るの?」と聞かれ、「地元は埼玉です」と訂正すること数えきれず。Shiftkeyのドローン担当。


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